前回はクールジャズ・テナーの代表格スタン・ゲッツをご紹介したが、クールから派生したウエストコースト・ジャズというのがある。
私はウエストコーストの中でも特にアルトがあまり好きではない。
熱気あふれるバップとは対極にあるスタイルなのでしょうがないんだが、楽器がフルに鳴っていないように聴こえてしまい、どうにも消化不良な感が否めない。
そんな中、オープンで明るい音を出すアルトがハーブ・ゲラーである。
ジャケットの写真で見る限り、マウスピースはブリルハートのトナリンのようだが、こんな鋭くクリアな音が出せるのか。
息のスピードを早くした吹き方なのだろうが、力んでいるようにはまったく聴こえない。
フレーズでいうと、この人のアルトは圧倒的に正確だ。
いかに速いテンポの曲であろうと、指が転ぶことがない。吹き流すということを決してしない。
よく言えば正確、悪く言えば神経質なわけだ。
“Geller”という苗字からするとドイツ系だろうか。もしそうなら神経質な演奏というのもある程度理解できるような気がする。
本作は愛妻ロレイン・ゲラー(p)との競演でも有名であり、無伴奏ピアノソロの曲も収録されている。
夫への愛情がこめられているような素晴らしいソロだ。
しかしロレインはこの録音の3年後、白血病で亡くなってしまう。
最愛の妻を失ったハーブは活力を失い、カムバックに長い時間を要することになる。
本作はゲラー夫妻が最も充実していたころの演奏といえるだろう。
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