前回書いた高瀬アキの”Blue Monk”が録音されたのは1991年だが、同年にジャズテナーの巨匠最後の演奏が吹き込まれていた。
スタン・ゲッツである。
本作は1991年3月、ゲッツが癌で亡くなるちょうど3ヶ月前に録音されたライブ盤である。
ケニー・バロンのピアノとデュオで、全曲スタンダード。
理論的に難しいことは何もやっていないが、二人のソロは実にメロディアスだ。バロンの透き通ったピアノがとても心地よい。
テナー、ピアノともにアドリブの練習素材としても最適といえる。
だが、そんな話はここでは重要ではない。
本作において何よりも聴くべきは、ゲッツの音の凄まじさである。
ご存知のとおり、サブトーンを多用した柔らかく太いサウンドは、50年代のクールジャズの代表格であり、60年代にはボサノバを取り入れ人気を博した。
しかし、本作ではサブトーンはそのままに、クールとは言い難い、バチッと楽器を鳴らした力強い音を聴くことができる。
ラバーのマウスピース(たぶんオットーリンクと思う)を使っているが、音色は明るくオープンな印象だ。
最晩年の録音にもかかわらず、このパワーと艶は一体何なのか。
末期癌を抱えた人の演奏であるとは思えない。
聞いていると、目頭が熱くなるのを止められないのだ。
1987年に肝臓癌と診断され、宣告された余命は1年余であったという。しかし、ゲッツはその後4年間生き延び、テナーを吹き続けた。
最後に、ライナーノーツからケニー・バロンの手記を転記したい。
「このレコーディングに収められた音楽が格別のものに思えるのは、スタン・ゲッツの演奏を刻んだ最後のレコーディングであるという以外に、その音楽が…癌のもたらす苦痛にも関わらず、あるいはそれゆえになお一層、リアルに誠実で、ピュアでビューティフルな音になっているからである。」
享年64歳。
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