失礼を承知で申し上げるなら、「半端なテナー」というのがブッカー・アーヴィンに対する私の印象である。
テキサス出身で、タフ・テナーと呼ばれたりもするらしいが、私から言わせればブッカーの音はタフ・テナー(所為テキサス・テナー)のそれとはまるで別物だ。
名盤とされる"The Song Book"を聴くと、泥臭くささくれたような音色は素晴らしいし、フレーズも参考になる。が、どうも印象に残らないのであった。
さて、今回ご紹介するのは"The Trance"。
1965年、ヨーロッパ(どこだかは忘れた)での録音である。
わかりやすいんだか難解なんだかよくわからないレコードだが、なぜかこれは好きなのであった。
表題曲"The Trance"はモーダルなナンバー。
ジャッキー・バイアードのピアノが怪しいイントロを引き、中近東的な音階をはさむ怪しいメロディーが続く。
ブリブリ吹きまくるブッカーとは違った印象で、モード独特の緊張感が出ている。
ただし、1曲19分。このテンションで19分では冗長な感は否めない。
もう少し緩急がつけられればと思ってしまう。ベタな発想ではあるが。
そして、スタンダード"Speak Low”。
綺麗なメロディーがだんだん雲行きが怪しくなっていき、聴き手を不安にさせる変な曲に聴こえて来るわけだが、なぜかまた聴きたくなってしまう。
ヨーロッパという、フリー・ジャズにも寛容な風土の影響なのか、実験的試みがある作品だ。
そのものズバリのハード・バップでもなければフリーでもない。
大部分のリスナーには受けないだろうが、
ジャケット通りにそこはかとなく怪しいこの一枚、
たしかにイマイチではあるが、聴いてみるとこれまたおもしろいのである。
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