2011年2月28日月曜日

宮間利之とニュー・ハード/"Take The A Train"

本日は名古屋出張の際にサボってレコード屋巡りをして手に入れた一枚。
最近熱心にTBMを集めているので、帰社予定を無視してとりあえず即買いした。
1975年、TBMが5日間ぶっ続けでジャズライブを行う"Live In 5 Days In Jazz"を主催したのだが、ニューハードのライブを録音したのが本作だ。

エリントンへのトリビュートとして演奏されているが、
標題曲"Aトレイン"はエリントン楽団の専属歌手であったベティ・ロシェのスキャットをホーンセクションで吹くというもの。

前衛的な挑戦もしていたニュー・ハードだけあって、アレンジは一味違う。
宮間さんご本人によれば、
「若いモダン・ジャズをめざすオーケストラがエリントンの曲をそのままやっても意味がないんです。漫画になっちゃうんです。」
とのこと(ライナーノーツより抜粋)。
そんな経緯で、このアレンジが生まれたのであろう。
どアタマのフォルテッシモが大迫力の名演。音量を大にして聴いていただきたい。
しかしまあ、TBMのレコードに共通したことだが、とにかく音がいい。
ビッグバンドものであれば、突き刺さるようなトランペットセクションや、アルトのビロードようなビブラートが、ライブの臨場感そのままに聴くことができる。
素晴らしい内容の本作だが、けしからんことにCD化されていない。
レコード自体は中古市場で入手可能なので、見つけたら即買いをおすすめする。
ちなみに、本バージョンのAトレインはコチラのCDでスタジオ録音版を聴くことができる!
これも要チェックの一枚だ。

2011年2月19日土曜日

今田勝/”ナウ!”(サックス:三森一郎)

ついつい更新が滞ってしまった…。

前回はスリー・ブラインド・マイスについて書いたので、今回は早速TBMの名盤を紹介したいと思う。


←70年代らしい挑発的なジャケットが印象的だ。












1970年録音。

新宿ピットインの2階に「ニュージャズ・ホール」が作られたのが69年であるから、まさに新しい「日本のジャズ」が毎晩生み出される、凄まじい時代だったはずだ。
本作のタイトルはそのものズバリ、『ナウ』(”Now”)。
まさに今、独自の新しい音楽が作られている、という意味からつけたのかもしれない。
「状況劇場」とネーミングの発想が似ている気もする。

メンバーは
今田勝 (P)
三森一郎 (Ts,Ss)
水橋孝 (Ba)
小津昌彦 (Ds)
※敬称略

当時は若手だったのだろうが、今から見るととんでもないメンバーだ。
全曲今田勝さんのオリジナル曲で占められているが、戦闘的なフリー・ジャズというよりも、

リラックスして聴ける好演
という印象が強い(とはいっても前衛的ではあるのでそこらへんは心配無用)。

A面1曲目『ノスタルジア』はどことなく哀愁漂うメロディーが美しいバラード。
三森一郎さんのテナーは、輪郭のはっきりした美しい、しかしちょっとささくれたようなサウンド。
もろに後期コルトレーンの影響が感じられる。高音域はテナーというよりも、太い音のソプラノサックスのようさえ聴こえるときがある。

B面の1曲目モーダルなナンバー『ゲーヒ・ドリアン』も好きだ。
モードのこういう曲演りてえ!と思わせる印象的なテーマ。
ちなみに「ゲーヒ」というのは「ヒゲ」の逆さ読みで、昔グループで一緒だったベーシストの吉沢元治さんがヒゲを生やしていたため、曲名に使ったとのこと笑。

全曲外れなし、日本ジャズらしさを存分に実感できる超名盤だ。

関連記事
スリー・ブラインド・マイス・レコード
フリージャズ大祭 "インスピレーション&パワー14"

2011年2月13日日曜日

スリー・ブラインド・マイス・レコード

久々に日本ジャズを紹介したいなと思ったが、その前に、私の大好きなあるマイナーレーベル

スリー・ブラインド・マイス
 (Three Blind Mice、以下TBM)について書いておきたい。



このTBMは、熱狂的ジャズファンの藤井武先生が「日本のブルーノート」を目指して1970年に設立された。

私はTBMが設立された時代には生まれてもおらず、というか精子にすらなっていなかったわけで、「このレーベルは云々」と偉そうなことを言える立場には当然ない。
が、レコードから飛び出す音はとても魅力的で、何か書かずにはおれないのである。

話が脱線してしまった。
TBMは日本人ジャズミュージシャンを専門に扱い、発表の場がなかなか与えられない新進気鋭の若手にも録音の機会を与えるレーベルで、マイナーレーベルとしては異例の154タイトルを世に送り出した。

※ちなみに、”Three Blind Mice”(3匹のめくらねずみ)というのはマザーグースに登場する歌である。
農家のおばさんが包丁を持って3匹の盲目のねずみを追い掛け回して切り刻むという、すさまじくサイコな歌だが、宗教的マイノリティー(おそらく清教徒のことと思われる)への迫害を歌ったものらしい。
もしそうであるならば、旧世界の価値観とは違う新しいものを作るという意味で、マイナーなジャズを記録し紹介するレーベル名として相応しいと考えたのかもしれない。


峰厚介今田勝、大友義雄、土岐英史、山本剛、辛島文雄、宮間利之とニューハード、鈴木勲、金井英人、高柳昌行、松本英彦、東京ユニオン…(順不同、敬称略)。

今から見ると、とんでもない面子ばかりだが、当時はまだ無名のミュージシャンもいて、藤井さんは自らライブハウスに足を運び、これはというプレイヤーを発掘していたという。


日本ジャズが大きく動いた時代に録音されたため前衛的な内容のものが多く、中古屋で見つけるたびに「どんな音がするのかな。」と、ワクワクした。

日本ジャズの躍進に多大な影響を与えたTBMだったが、時代の波には逆らえなかったのか、2006年に倒産してしまった。
残念極まる。

我々のようなジャズファンにとっては大変ありがたいレーベルだったが、日本ジャズというマイナーなジャンルの、それも先鋭的なアーティストを多く取り上げていたのであるから、こう言っては大変失礼だが、なかなか売れなかったことと思う。


←レコードにはブックレットもついていた。
中古屋で買ってこれが入っていると、何やら得した気分になる。










2007年にソニーミュージックから人気の25タイトルが高音質CDで限定再販された(何枚出されたのかわからないが、今はほとんど売れ切れになっている)。

レコード業界の弱肉強食っぷりが垣間見える気がする。


そんな経緯で、TBMのレコードやCDは中古市場以外では手に入らなくなってしまった。
TBMをネットや中古CDショップで見つけた貴方(貴女)!

逡巡することなく買うことをオススメします!

関連記事
今田勝/”ナウ!”(サックス:三森一郎)
宮間利之とニュー・ハード/"Take The A Train"
松本英彦さん/"Sleepy"
峰厚介クインテット/"ミネ"
太田邦夫クインテット/"My Back Pages 俺たちの青春"
追悼 金井英人/アランフェス協奏曲

2011年2月5日土曜日

レオ・パーカー/"Back To Back Baritones"

前2回は、洗練された音のプレイヤーをご紹介したが、その反動なのか、ゴツゴツした無骨なバリトンサックスを聴きたくなる。

これは性としか言いようがない。


というわけで、今回はレオ・パーカーである。






古いモノラル録音で、1940年代後期のものと思うがよくわからん。

メルヴィン・ギルとの2バリトンらしいのだが、そもそもこのメルヴィン・ギル(Sax Gill)があまりにマイナーすぎて何者なのかまったくわからん。


まあ細かいことは置いといて、とにかく聴けばよい。
まったくやる気のないジャケットではあるが、
1曲目から特徴的な極太の音を満喫できる。現代的な、いわゆる「ドンシャリ系」とはまったく違う昔の楽器の音。
ブリブリ吹くだけでなく、奏法の基本がサブトーンになっているとわかる2曲目。

思わずヨダレが出てしまう。

バリトンサックスが好きな方には特にオススメしたい一枚だ。

2011年2月1日火曜日

ハーブ・ゲラー/”The Gellers”

前回はクールジャズ・テナーの代表格スタン・ゲッツをご紹介したが、クールから派生したウエストコースト・ジャズというのがある。

私はウエストコーストの中でも特にアルトがあまり好きではない。
熱気あふれるバップとは対極にあるスタイルなのでしょうがないんだが、楽器がフルに鳴っていないように聴こえてしまい、どうにも消化不良な感が否めない。
そんな中、オープンで明るい音を出すアルトがハーブ・ゲラーである。

ジャケットの写真で見る限り、マウスピースはブリルハートのトナリンのようだが、こんな鋭くクリアな音が出せるのか。
息のスピードを早くした吹き方なのだろうが、力んでいるようにはまったく聴こえない。

フレーズでいうと、この人のアルトは圧倒的に正確だ。
いかに速いテンポの曲であろうと、指が転ぶことがない。吹き流すということを決してしない。
よく言えば正確、悪く言えば神経質なわけだ。
“Geller”という苗字からするとドイツ系だろうか。もしそうなら神経質な演奏というのもある程度理解できるような気がする。

本作は愛妻ロレイン・ゲラー(p)との競演でも有名であり、無伴奏ピアノソロの曲も収録されている。
夫への愛情がこめられているような素晴らしいソロだ。
しかしロレインはこの録音の3年後、白血病で亡くなってしまう。
最愛の妻を失ったハーブは活力を失い、カムバックに長い時間を要することになる。


本作はゲラー夫妻が最も充実していたころの演奏といえるだろう。