「男のテナー」と来れば、デクスター・ゴードン、ジーン・アモンズが筆頭に上がりそうだが、今回紹介するのははアーネット・コブ(Arnett Cobb)である。
演奏もさることながら、そもそも見た目のインパクトがハンパではない。
「お前はアルト吹きなのにまたテナーかよ!」という罵声が飛んできそうだが、表現の自由なので気にしない。
日本国内での知名度はいまいちのようだが、私はとても好きだ。
ジャズファンの中ではコブはホンカーとして位置付けられることが多いが、私の持論では、
コブはホンカーではない(!!)。
※ 「ホンカーってそもそも何よ?」という方は、ブログのバックナンバー「下品でナンボ!ホンカー特集」を参照されたい。
泥臭さむんむんで吹きまくるが、基本的なスタンスが、何というかどっしりしている印象を受ける。ビッグ・ジェイ・マクニーリーなどのいわゆるホンカー族と比べると、よりジャズ的と言えるかもしれない。ギャンギャン吹くというタイプとは一線を画する。
あくまで私個人の好みであるが、テナープレイヤーにはこういうのを聴いて欲しい!!
で、オススメはこちら。
"Chittlin’ Shout"
チタリン(Chittlin’)というのは豚の小腸のことらしい。
B.B.キング曰く、肉を買う金のない黒人がチタリンを買って食う。それが転じて、黒人地区の小さいクラブで演奏することをチタリン・サーキットと呼ぶようになったと。
そういうところの客は皆耳が肥えていて、つまらない演奏をすると野次ったり、物を投げつけたりするそうである。
コブもチタリン・サーキットで揉まれて這い上がっていったミュージシャンの一人である。
アルバムの内容を一言でいうと、ブルース、ファンク、ソウル、ジャズのごった煮。
小手先のテクニックは一切無視!男だぜ!
71年録音。
"Blow Arnett Blow!"
ゴリゴリ系サックスの代表格であるエディ・ロックジョウ・デイビスとの共演。フロントを2テナーにして吹きまくる、夢のような一枚。
ソロバトルを聴いていると、二人のスタイルが違って面白い。
ロックジョウはかなり速いテンポでも、拍に忠実にはめ込んでいく速射砲のようなプレイ。
かたやコブは、最初から拍を無視して好きなように吹く。笑える。
特に2曲目の”Go Power!!”の演奏は圧巻だ。この曲はI Got Rhythmと同じ(多少単純化しているように思うが)コード進行であるので、コピーの素材としても面白い。ブルース系プレイヤーらしいわかりやすいアプローチが聴いていて楽しい。
"Smooth Sailing"
唸りまくるオルガンをバックに、コブがブリブリ吹く。
先に紹介した2枚と比べると若干おとなしい感じか。
聴いてみた方はお分かりかと思うが、紹介したアルバムはどれも熱い演奏ばかり。
しかし、驚くべきとこに、これらのアルバムを録音したとき、コブは自力で歩けない状態であったのだ。
56年の自動車事故に遭い、
二度と自分の足では歩けなくなってしまった。
松葉杖にも関わらず、ライブでぶちかますアーネット・コブ。
だが、不屈の精神で演奏を続け、ライブでは松葉杖をわきの下に挟んで立ち上がり、テナーをこれでもかと言わんばかりに吹いたという。
1989年、71歳で死去。
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