火花の出るようなバップやフリー・ジャズもいいが、薄暗いジャズ喫茶に似合う「派手ではないがこれぞ名演」なるものを聴きたくなったりする。
ティナ・ブルックスのテナーは正直、地味だ。
ブルックスがジャズ界に残した足跡はあまりにも小さい。
さらに悪いことにテナーマンには巨人が多く、完全に影が薄くなってしまった。
たしかに、演奏技術はロリンズやコルトレーンに遠く及ばない。が、くすんだような独特の音色と影を感じさせるオリジナル曲は地味ながら魅力的。
ふとたまらなく聴きたくなる、渋いテナーなのである。
本作は1960年録音。
ジャケット・デザインまで決まっていたのにお蔵入りになってしまったため、
永らくブルーノート幻の名盤とされていたのは有名なエピソードである。
そんな話はともかく、2曲目"Street Singer"を聴くべきだ。
テーマはマイナーペンタを拝借したシンプルなものだが、この物悲しさはどうだ。たまらない。
この曲のみブルックス、ブルー・ミッチェル、マクリーンの3管なのだが、この3人、なんとなく音色の傾向が似ている。
皆なんともいえない暗い音だ。
トランペットがドナルド・バードだったら、アルトがルー・ドナルドソンだったら、こうはいかなかったろう。
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ブルックスは74年、42歳の若さで亡くなった。
クスリをやりすぎ、肝臓を悪くしたのだそうだ。
長生きしても結局「マイナーなテナーマン」だったろうが、あの音でまたマクリーンと演って欲しかった。
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