2011年6月27日月曜日

ティナ・ブルックス/"Back To The Tracks"

火花の出るようなバップやフリー・ジャズもいいが、薄暗いジャズ喫茶に似合う「派手ではないがこれぞ名演」なるものを聴きたくなったりする。





ティナ・ブルックスのテナーは正直、地味だ。


ブルックスがジャズ界に残した足跡はあまりにも小さい。
さらに悪いことにテナーマンには巨人が多く、完全に影が薄くなってしまった。

たしかに、演奏技術はロリンズやコルトレーンに遠く及ばない。が、くすんだような独特の音色と影を感じさせるオリジナル曲は地味ながら魅力的。
ふとたまらなく聴きたくなる、渋いテナーなのである。


本作は1960年録音。
ジャケット・デザインまで決まっていたのにお蔵入りになってしまったため、
永らくブルーノート幻の名盤とされていたのは有名なエピソードである。

そんな話はともかく、2曲目"Street Singer"を聴くべきだ。

テーマはマイナーペンタを拝借したシンプルなものだが、この物悲しさはどうだ。たまらない。
この曲のみブルックス、ブルー・ミッチェル、マクリーンの3管なのだが、この3人、なんとなく音色の傾向が似ている。
皆なんともいえない暗い音だ。
トランペットがドナルド・バードだったら、アルトがルー・ドナルドソンだったら、こうはいかなかったろう。

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ブルックスは74年、42歳の若さで亡くなった。
クスリをやりすぎ、肝臓を悪くしたのだそうだ。

長生きしても結局「マイナーなテナーマン」だったろうが、あの音でまたマクリーンと演って欲しかった。

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2011年6月21日火曜日

エリック・アレキサンダー&ヴィンセント・ハーリング/"The Battle"



米国バップシーンを牽引する二人のトップミュージシャン競演盤である。

ジーン・アモンズとスティットの演奏で有名な"Blues Up And Down"を持ってくるところなど、サックス・バトルのツボを押さえているなあ、という感じだ。

しかしまあ、エリック・アレキサンダーのというのは不思議なプレイヤーだ。
豪快なトーンですごいことを吹いているのに、静かに聴こえる。というか、熱さがあまり感じれない。
そのクールは雰囲気が人気の秘密でもあり、またイマイチと言われる部分でもあるのだろう。
それに対して、ヴィンセント・ハーリングのアルト、とにかく音が太い
キャノンボール・アダレイに強く影響を受けたであろう、「鳴りきったラバーのマッピの音」で吹きまくる。
テクニック偏重派ではなく、やたらと難しいことをやり過ぎない、ある意味泥臭いフレーズが熱い。

たしかに内容は現代のバップの最高峰といえるだろう。
各プレイヤーのソロは抜群にかっこよく、指折りの名手による最高の演奏だ。
練習素材としても申し分なし。「あんなフレーズが自在に吹けたら・・・。」とつくづく思う。
サックス奏者は買って聴くべきCDであることは間違いない。

だが、はっきり言えば、おもしろくない

生意気を承知で言うが、昔の音源を聴くのと同じだ。
バップとハード・バップ、過去の偉大な演奏の焼き直しである。
巨人の演奏を踏襲しつつ、それを壊すことをしなければ新しいものは生まれない。
これは、古今東西の文化に共通してあてはまることだ。
そして、「トップ・プレイヤーによるギリギリ感」がない。
上手すぎる。
ミストーンもないし、フレーズに詰まってしまったりすることもない。
我々が聴きたいのは、スター・プレイヤーの技量を持ってしてもコレが限界!というスリリングな演奏なのだ。
結局新譜を買わなくなってしまう理由がここにあるのだ・・・。

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2011年6月11日土曜日

追悼 金井英人/アランフェス協奏曲

今回はサックスの話はあまり出てこないので悪しからず。


日本ジャズの牽引者であったベーシスト、金井英人さんが4月8日に亡くなった。
不覚にも、亡くなっていたとは知らなかった。
享年79歳。
悔やまれる死である。

1960年代初期、高柳昌行、富樫雅彦らとともに「新世紀音楽研究所」を旗揚げ。独自の音楽を作るために注力し、日本における前衛のさきがけとなった。
※ここらへんの状況は「日本フリージャズ史」(副島輝人著)に詳しい。

今回ご紹介するのは、金井英人クインテットにより1978年に録音された名盤
『アランフェス協奏曲』である。

※中古屋で探せば当然こんなに高くないので心配いりません。オリジナル盤じゃあるまいし。

これはもう圧倒的だ。
アランフェスの美しいメロディーをテナー2本でドラマチックに提示しつつ、不気味で荒々しいベースの重低音が後ろで鳴っている。
憎い演出だな、というのが第一印象だ。
サックス2本のうち、特に藤原幹典のアルトはすごい音を出している。
鳴りきったラバーのマウスピース独特の、柔らかくもピーキーな音だ。メタルじゃこうはいかないんだな。
藤原氏はこのとき若干20歳(!)。しかも楽器を始めて3年程度だったらしいが、にわかには信じ難い。10年以上楽器を吹いているこっちの立場がない。
尖った若手を集めて自由にやらせつつ統率し、「自分のアランフェス」を作り上げた金井氏は、ベーシストとしてだけでなくアレンジャーやバンドリーダーとしても非凡であったのだろう。

こういうジャズをやる人は最近いないな、売れないからかな、などとレコードを聴きながらひとりごちるのである。
(以上、敬称略)
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2011年6月7日火曜日

思い出のアーチー・シェップ/"Attica Blues"

部活でサックスを始めた高校1年生のとき、何かの雑誌で「アーチー・シェップが素晴らしい」と書いてあったのを読んで地元の図書館で"Attica Blues"を借りた。

今から思えば、シェップのCDが図書館に置いてあること自体笑える。

誰かリクエストしたんだろうか・・・。





ともかく聴いてみたところ、スピーカーから流れ出したのは
ドロドロファンクとグチャグチャジャズのシチュー
みたいな、とんでもないものであった。
当時私が持っていたサックスのCDはキャンディー・ダルファーとサンボーンだったわけだから、それはそれはおったまげた。
と同時に、「こんなわけのわからん音楽が二度と聴くまい」と思ったわけです。

さて、時は過ぎて今改めて聴いてみると
これがまたとんでもなくかっこいいと感じるのだから困ってしまう。
アーチー・シェップは「フリージャズの闘士」と呼ばれた時代もあり、敬遠してしまう方も多いかもしれないが、この盤に関してはあまり心配要らない。

本作は、アッティカ刑務所での暴動で多数の黒人囚人が殺された事件を元に作られたそうだが、シェップの作品の多くに人種差別への怒りがあるのは言うまでもない。
この時代の多くの黒人ミュージシャンがそうであったように、根底に流れる思想は
「ブラック・イズ・ビューティフル」
そのものだ。
が、ここでは詳述は割愛させていただく。
詳しく知りたい方は、ジャズ批評のバックナンバーでも探したほうがよりわかるはずだ。

話を戻そう。

ともかく、このレコードはフリージャズというより、インチキ臭いファンクといった方が近いだろう。
なぜこういったフォーマットを用いたのかは定かではないが、このインチキ具合がまたかっこいいのだから困ってしまう。
70年代の泥臭いファンクとシェップ独特の呪術的なリズム。
それを演奏するのはヴォーカル、ホーンセクション、ストリングスまで混ぜた30人以上の大バンド。

Pファンクにも通じる真っ黒なノリだが、意外(というのは失礼だが)調和がとれている。
印象がガラッと変わる6曲目はサッチモの追悼曲。
美しいストリングスをバックに、ソリッドな音色のソプラノを吹きまくるシェップが非常に印象的だ。

ただし、趣旨のわからんフェイド・アウトでの終わらせ方はどうにかして欲しかった・・・(笑


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