2012年9月13日木曜日

ソニー・スティット/"With The New Yorkers"

 スティットがやたらと多作であることは以前も書いたが、特筆すべきは、どのアルバムでもまったくと言っていいほど演奏スタイルが変わらない点だ。
電気サックスを吹いてみた変なのもあるし、晩年はさすがに音がヨレヨレになってくる。だが、やっぱりバップスタイルを貫いているのだ。
 スタンダードや正統派ブルースなどを選び、湧き出るバップフレーズを吹きまくって一丁上がり。ほとんど金太郎飴である。
 それは芸がないわけでは決してない。
 歌モノではしっとりとテーマを聴かせ、ファストスイングでは饒舌なフレーズをいくらでも吹く。その型が飽きられなかったからこそ、100作を軽く超える作品を生み出せたのだ。アッパレとしか言いようがない。

 本作はテナーは吹かず、アルト一本。
 音色はパンチがあり、いかにもバップ向きだが、バラードを吹くとこれがまたたまらないのだ。
 "It Might AsWell Be Spring"は、まずテーマが素晴らしい。女性ヴォーカルが歌い上げるような吹き方だ。
 そして、手に汗握る超速Cherokee。高速テンポで演奏することが多いこの曲だが、とんでもないスピードで演奏されている。さすがのスティット先生もテンポについて行けない場面が散見され、1小節中の音符の数が足りなかったり、フレーズが収まりきらなかったりしている。
 だが、驚嘆すべきはこの速度でも聴き手が歌えるバップフレーズが止め処なく溢れてくることだ。しかも、休みなく吹き続ける技量。
 「吹き倒す」とは、まさにこのことだ。

 

2012年9月9日日曜日

ライブ・アット 騒(GAYA)を読む ~阿部薫の命日に寄せて~

 かつて渋谷区初台にフリージャズ・ミュージシャンが集まるライブハウスがあった。
その名は『騒(GAYA)』。
 本書はオーナーであった騒恵美子による証言集だ。
 当時出演したミュージシャンや常連客との交流を主軸に、店を開いた理由、そして自分は何者であったのかという自身への問いかけにつながっていく。
 多くのミュージシャンが登場する中で、特に力を入れて描かれているのは、阿部薫、鈴木いづみと重なった、短くも強烈な時間についてだ。

 

 阿部薫の伝説は語り尽くされている。
 最近こそあまり見なくなったが、1960~70年代の日本ジャズ、アングラムーブメントについて書かれた本や雑誌のバックナンバーを読むと、阿部薫と鈴木いづみのエピソードはたびたび取り上げられている。傍若無人でキチガイじみた振る舞い。約束をすっぽかし、鈴木いづみを殴り、命を削ってサックスを吹き、音の伝説を残したままクスリであの世に逝ってしまったと。
 だが、騒恵美子の目には、律儀で繊細な男と映っていたようだ。本当は人間が好きなのに人間嫌いを装い、繊細すぎるために世の中と上手く折り合っていけない男。
 それがいつしか伝説のサックス奏者として祭り上げられ、本人も後戻りできなくなったのではないのかと、平易で直球の文章で描かれている。
 長い時間心の底に沈殿していたものが一気に解放されたように、騒恵美子の文章は続いていく。
 中でも特に印象的な部分を引用してみる。

「二人は音を残し、文章を残したことで、肉体をもって生きたあの時期に出会った人だけでなく、肉体が滅びた後、遅れてきた人の間でも生き続けられる永遠の命を持ってしまったということだ。」

 この「持ってしまった」、という一文にすべてが集約されている。
音源がCD化されたことは私のような遅れてきたファンにとっては望ましいことではあるけれども、それは死によって伝説が完成されたことも証明している。
だが、こんなやるせないことがあるだろうか。
 亡くなった人のことを、しかも知り合いでも何でもない人をどうこう言うのはよろしくない。
 が、生きて楽器を吹き続けてこそ、その長い道程に意味があるのではないか。
その音楽が永遠の命を持つのは、ずっと後でよかったのではないか。
 しかしこうも思う。レコードを通じてさえ伝わって来るあの研ぎ澄まされたアルトの音は、あの人にしか出せなかったのかもしれない、と。

 本書にはミュージシャンや批評家が阿部薫について書いた文章とは違う側面が書かれており、記録としても大変貴重である。と同時に、本書は著者の遺作でもあったのだ。
 騒恵美子も2011年10月に癌で亡くなった。
日本ジャズの動乱期を知る人が、また一人いなくなってしまった。無念である。

(敬称略)



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吉沢元治・高木元輝デュオ/『深海』

2012年9月8日土曜日

デイブ・ホランド・ビッグバンド/"What Goes Around"

デイブ・ホランドには地味な印象しか持っていなかったが(失礼な話だ)、作曲すると変態なものが出来上がってくるのだから、もう嬉しくなってしまう。ECMだからか少々綺麗過ぎるとこはある。もう少しグチャグチャにしちゃってもいいのにと思わんでもないが、ツボにはまる曲にはガシッと心を掴まれる。

ともかく、"The Razor's Edge"を聴いて欲しい。
各セクションが次々に重なり調性の薄いテーマ形を作っていくとこなんか、もう痺れてたまらん。
コンテンポラリー寄りの曲調だがわかりやすいかっこよさ溢れるトゥッティ。
実際にバンドで演奏することを考えると、こういうところはとても大切だ。自分のバンドでバシッとキメて拍手浴びてぇ~!と、選曲意欲を非常に掻き立てる。

サックス吹きの視点からしてもこのアルバムは買いだろう。
何しろ、アントニオ・ハート、マーク・グロス(As)、クリス・ポッター(Ts)、ゲイリー・スマリアン(Bs)ときたもんだ。
しかも当然だが、サックスに限らずソロの完成度は非常に高い。
こういう音源を聴いていると、バンドとしてのスピード感を出せるかどうかにはセクションはもちろんのこと、ソロにも大いに責任があることがよーくわかる。と、書くのはたやすく、やるのはえらい難しいんだが・・・。

ビッグバンドファンもコンボ屋も十分楽しめる一枚。


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2012年8月14日火曜日

John Coltrane / "OM"


A面B面通じて1曲な上に、この呪術的なジャケット。
ビビッてなかなか手が出なかった一枚だが、聴いてびっくり。大変気に入った。

冒頭はメンバー全員による詩(?)の朗読から始まる。True Actionがどうたらと言っているがまったく聞き取れない。チベット死者の書からの引用と聞いたことがあるが・・・、ともかくよくわからん。
変なライナーより対訳をつけてくれりゃいいのに。
続いて問題の「オーム、オーム」が始まり(「オーム」というのはインド諸宗教で瞑想などに使われる聖音らしい)、怪しい土台が出来上がったところでコルトレーンがフルトーンで吹き始める。
この音色の強靭なことといったらもう。楽器がぶっ壊れるんじゃないかと思うくらいである。
ファラオ・サンダース十八番のギョエギョエが絡まり、アフリカンドラムが交じり合い、ジョー・ブラジルのフルートが突き刺さり、B面はもはやジャズのフォームではなくなっている。インドや東洋の要素を混ぜ込んだ国籍不明のカオス状態だ。
こういった精神感応ミュージックは嫌いな人にとっては勘弁してくれ状態なのだろうが、私は純粋にかっこいいと思う。サックスプレイヤーとしては参考になる部分は少ない。というかほとんどないのだが、なぜかまた最初から聴きたくなってしまう。
スピーカーの前に陣取り、爆音で聴きたいアルバムだ。
 
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2012年8月10日金曜日

イーヴォ・ペレルマン "Mind Games"


イーヴォって何人かと思ったらブラジル人のオッサンだった。
何はともあれ、まず音色がいい。
ラバーのマッピの音ではあるが、音色が独特なのだ。
たっぷりとしたローの土台にハイが乗っかっていて、なおかつ独特のジャリッとした倍音が多く含まれている。常にオーバートーンが基本にあるような音だ。

テナー、ドラム、ベースのトリオだが、演奏自体はデュオに近い。
パーカッション的なドラムをバックにペレルマンが延々とソロを吹く場面が多いのだが、正直最初はダレてるなぁと思うところもあった。
が、ちょっと我慢して(笑)注意深く聴いていると、次々に違ったフレーズが湧き出て飽きが来ない。というか次第に脳がトランス状態になってきて気持ちいい。
これは!と思う調性が薄い浮遊感のあるフレーズも連発され、コピー意欲をそそられる。
この種のフレーズは「このコード進行に使えるからコピー!」ではなく「コピーしてみたが、さてどんな進行に使えるかいな?」と考えるのが楽しいタイプのものだ(ヘタクソな言葉遣いだがニュアンスはわかっていただけるかと)。

これは買って大正解。

2012年7月25日水曜日

吉沢元治・高木元輝デュオ/『深海』



山下洋輔トリオとはまた違う、重い重いフリージャズ。
これもあの時代の日本ジャズの一面なのだ。

フリージャズにありがちな中弛みなんか一切ない。聴いている側も集中していないと、パワーに気押されてしまう。
フリーに「構成」という言葉が当てはまるとは思わないが、ここぞという場面で吉沢さんのベースが唸り始め、重い旋律がテナーと重なる。
これこそがインタープレイなのだ。
高木さんはテナー、ソプラノ、バスクラと持ち替えるが、"Lonely Woman"のソプラノの音色といったら・・・。こんな音が吹ける人は他にいないだろう。
この手の音楽だと、どうしてもサックスの絶叫に耳がいってしまう。
ここでも高木さんの唸り声と楽器の音が半々くらいになったりして凄まじいのだが、サブトーンで吹いたときにすごくいい音が出てくる。サックス吹きとしてはこういうところを聴き逃したくない。
と思っていると、バスクラの後ろでベースがふっと消え、フルートと思しき鋭い音が刺さってくる。二人だけの演奏・・・ってことは吉沢さんがフルートを吹いているのか!?と気がついたときはちょっと嬉しかった。

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2012年7月19日木曜日

オディーン・ポープ サクソフォン・クワイア/"Locked&Loaded Live At Blue Note"

これはヤバイです。


オディーン・ポープのサックス・クワイアというのは、テナー5人、アルト3人、バリトン1人にリズムセクションという、なんとも笑ってしまうようなバンドだ。
そこにマイケル・ブレッカー、ジョー・ロバーノ、ジェームス・カーターがゲスト出演するという、はっきり言ってバカなんじゃないかというライブである。

全体を通してともかく暑苦しい。
ポープの趣味なのだろうか、クワイアのレギュラーメンバーもバチバチのパワー系奏者を揃えているので、美しいメロディーの曲でもやはり暑苦しい。
が、そこが好き者には堪えられないだろう。

ゲストは皆お約束通りのスーパープレイを聴かせてくれるが、ともかくブレッカーのソロが頭おかしい。
2曲目のソロで好き放題に吹きまくり、聴いているほうは頭がカッカ来る。
ところが後にさらにスゴイ"Coltrane Time"が控えている。ポープとブレッカーのバトルなんだが、うるさいうるさい。「お、そう来るか。じゃこうだ!」とオラオラ。「あ?ほいじゃ俺はこうだ!」とオラオラ。
聴いていて思うのだが、ブレッカーはリーダー作よりも客演の方が圧倒的によい。ヨアヒム・キューンのアルバムでもそうだが、周りを気にせず存分に暴れまくる。自分がプロデューサーだと気にすることが多くて暴走できないんだろうか・・・。他人の作品だからワーワーできるというのもどうかと思うが、格好よきゃいいんだ格好よきゃ。

2012年7月7日土曜日

マーチンのバリトンサックス/ネック延長作戦

大した参考にならないが、今日は楽器のお話。
私のバリトンサックスは"The Martin"と呼ばれるやつで、Low B♭までしかない。
機種に共通かどうかはわからんが、楽器としての特徴は
・音色は比較的柔らかいが、太い。
・操作性はテーブルキー以外はまずまず。
といったところである。

ただ、致命的な欠点があった。
全体的に音程が高いのである。

これはどうやら古い時代のバリトンに共通した症状のようだ。その昔、コーンやらマーチンやらが活躍していた時代にはチェンバーがやたらとでかい、モコモコしたサウンドのするマウスピースしかなかったのだ。それに合わせて楽器の設計をした結果、こういう事態になったらしい。
ネックに1cmくらいしかマッピが刺さらないと、吹いたときに安定しない。さらにネックとの接触面積が小さすぎると振動が管体に効率よく伝わらない。フルパワーで吹いても、どうもグリップできない感じになってしまう。

そこで、思い切ってネックを1.5cm延長することにした。
ネックのマウスピース接続側に同じ口径の真鍮パイプをハンダ付けし、つなげた部分の上から薄い真鍮の板を巻いて補強するというものだ。
リペア屋のオジサン曰く、1.5cm程度なら、テーパーをかけなくても影響はないだろうとのこと。

清水の舞台からダイブする気でやってみたのだが、吹奏感は抜群によくなった。振動が無駄なく伝わる感覚があって、余計なストレスを感じずに済む。
上手くいかなかった場合でもハンダ付けなので、原状回復は可能。

結果的には正解だったようだが、ただでさえ長いネックがさらに長くなってしまった。
吹いているとき楽器がやたら遠い。

古い時代のバリトンを好んで使う人は少ないだろうが、お悩みの方は試してみてはいかがでしょうか?

2012年7月1日日曜日

ライヴ・フロム・サウンドスケイプ/"Hell's Kitchen"


学生時代、アングラ感のにじみ出たジャケに惹かれて何も知らずに買ったのだが、これが大当たり。
ニューヨークのライブハウス「サウンドスケイプ」でのライブをオムニバスにしたものだが、尖ったロフトジャズが詰まっていて、とにかく大満足であった。
DIWにはこういうのを出して欲しい!デヴィッド・マレイの駄作やグロスマンの変なスタンダード集なんか出している場合じゃないのだ。

まずオディーン・ポープ・トリオにやられる。
重機関銃のようなリズムセクションにポープの強靭なテナーが乗っかる。でもって抜群にかっこいいテーマのモードが展開。ヘヴィロックのライブを聴いているようだ。
次にブロッツマン・トリオが出てきて、デビュー以来ずーっと同じスタイルのブギョブギョを撒き散らす。このオッサン本当に変わらないw。

そして、エド・ブラックウェルとチャールズ・ブラッキーンのデュオ。これには驚いた。
ドラムとテナーの二人でロフトジャズと来ればどんだけメチャクチャな演奏なのかと期待したが、よい意味で裏切られた。曲が綺麗なのだ。
コード楽器やベースがいないのに、曲の流れが見える。フリージャズにありがちな中だるみがない。しかもテナーの音色、唄い方がすごくいい。

このあとにドン・チェリーが洞窟の中で演奏した録音というのが入っているんだが、ラッパは吹いておらず、フルートをやっている。バックには地下水の滴る音がやたら入っている。
うーん、これはどうなんでしょうか・・・。空間系というかなんというか、うーん・・・。

以上

2012年6月27日水曜日

日野皓正、菊地雅章、ジョー・ヘンダーソン in concert



なぜだか「ソー・ホワット」のタイトルで売られている本作。
そんなことはさておき、いや~これは充実度高い。
日野さんは言うまでもなく、他のプレイヤーのソロも何度聴いても飽きがこないのだが、何しろジョー・ヘンダーソンのテナーがいい。お恥ずかしい話だが、このレコードを聴くまではジョー・ヘンがこんなにキレたテナー奏者だとは思っていなかったのだ。

ブルーノートのPage Oneなどを聴いていると、サブトーン多めの音色は堅実、フレーズは基本的に正統派でどこまでもマイペースな印象を受ける。
それはそれですごくいいのだが、ここでのジョー・ヘンはかなりぶっ飛んでいる。フリーキーに吹く場面まで出てくるのだが、マイペースは崩さないもんだからコルトレーン・フォロワー的な暴れ方はしない。無理せずにアウトする様がまたいいのだ。
B面を1曲で占める"Get Magic Again"はプーサンのオリジナル。
リズムもテーマもない、静かに尖った曲がジョー・ヘンの感性を刺激したのか、これまたモダン・テナーかくあるべきなフレーズを紡ぎ出す。
もっと売れてもいいアルバムだと思うのだが・・・。

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2012年6月13日水曜日

ジョン・ゾーン/"Naked City"



機械のような正確な演奏技術で、ピーキーで安っぽくやたらかっこいい音楽をやる。
初めてネイキッド・シティを聴いたときは衝撃的だった。

改めて聴いてみると、ジョン・ゾーンはサックス奏者としてはバップが根底にあるのだなとつくづく思う。「ギョエェェエェー!ケケケケッ」というのがゾーン節なのはもちろんだが、ノーマルな曲調になったときのソロなんかもうバップそのものだ(しかしあの「ケケケケッ」ってどうやればできるんだろうか・・・。やりたいんだが)。

さて、アルバムについてだが、フリー系の音楽は多くの場合ライブが圧倒的によい。
しかし、ネイキッド・シティについてはスタジオ録音のほうが断然疾走感がある。
ライブ盤には山塚アイが参加していないことも大きいだろうが・・・。スタジオ盤を聴きなれていると「ここだ!」というところでアイの絶叫が入らないと物足りないのだ。
とはいえライブ盤では各曲の尺は長めなので、フリゼールのぶち切れソロやゾーンのアルトを心ゆくまで堪能できる。"Inside Straight"の循環呼吸アルトソロは圧巻。まだいくのか!?とスピーカーの前で身を乗り出したくなる。

※スタジオとライブでは、やってる曲はほとんど同じ。比べるにはもってこいである。

2012年6月9日土曜日

アーチー・シェップ/"Fire Music"



「マルコム・マルコム・・・」で物議を醸した『ファイアー・ミュージック』。
火を噴くような超フリーかと思っていたが、案外そうでもない。
シェップのフリーキーソロも勿論あるが、急な展開、セクションにフレーズの繰り返しを吹かせて盛り上げていく手法など、作曲者としての側面がより目立つ。

正直、オラオラ系テナーの爆発を期待していた私としては肩透かしを喰った感は否めなかったが、我慢して(笑)聴いているうちに、コルトーレンへの対抗心からこういう構想を練ったのではないだろうか、と勝手に考えた。

何かが足りない「イパネマの娘」はシェップらしい雰囲気が病みつきになる。
この演奏は白人音楽への皮肉だ、と捉える向きもあるらしい。うーむ、どうなんだろうか・・・。
本人へのインタビューが見つからなかったのでわからんが、崩れているのはシェップのテナーだけだし、「皮肉」というより「俺流のイパネマ」をやりたかっただけにも思えるのです。
どうでしょうか・・・。

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2012年5月12日土曜日

チャーリー・ヘイデン / "Liberation Music Orchestra"



ヘイデンが反戦思想から本作を作ったらしいが、正直どうでもよい。
音楽のバックグラウンドを知ることでより深く理解できることに異論はない。この音源が録音されたのは1969年。米国はベトナムを爆撃しまくり、ウッドストックでフェスが開かれた時期だ。こうした時代背景からすれば、ふむふむと納得できる部分はある。
が、最初から知識だけ仕入れることは不要と思う。まず音を聴くべきだ。
反戦ということを音楽が表現し得るのか、という問いはほとんど禅問答であり、正直議論してもあまり意味ない。
ところが、反戦思想から生まれた名曲で云々というディスクレビューなんか読むと、なんとなく理解した気になって他人のどうでもいい意見をさも自分の意見のようにしてしゃべりたくなったりするのだから厄介だ。
まず聴いてみて、そこからどう思うか、やはりこれは反戦の歌なのだと捉えるか、各自で考えればよかろう。
大事なのは音楽自体に押してくるようなパワーがあるかどうか、ではないか。

いろいろグチャグチャ書いてしまったが、ともかくこのオーケストラの音楽は単純にかっこいい。カーラ・ブレイの、混沌の中に美しさが現れるアレンジ。よくもまあこういう曲を書けるものだ。
映画のサントラをそのままバッキングに使っている箇所などは好みの分かれるところだろうが、ナマ楽器の肉声を譜面で統制しつつ、自由にもやらせるというのは実に痺れる。
サックス好きとしては、レッドマンの豪腕を振り回す如きテナーだけでも一聴の価値はある。

2012年5月4日金曜日

ゲイリー・バーツ / "There Goes The Neighborhood!"


ド直球なジャズのアルバム。
選曲もバーツのオリジナルは1曲だけ。スタンダードも数曲含まれており、たしかに斬新さには欠けるが、アルトは芯が通ったパワフルな音色。若干暗めなところはマクリーンに通じるところも感じる。

唯一のオリジナル曲"Racism"(人種差別のことだろう)は超速マイナーブルースだが、バチバチッと吹きまくり、年齢を感じさせない。"Impressions"もやっており、このソロは素晴らしいスピード感。やはりコルトレーンに傾倒しているのだなと思う。
ゲイリー・バーツといえば、エフェクトかけたサックスでブラックジャズを吹くアフロのオッサンというイメージであった。どうでもいいが、昔のジャケ写なんかほとんど具志堅用高である。
そうした時代の演奏と比べて近年は野心がなくてダメだとする見方もあるようだ。
しかし、もともとサックスにエフェクトをかけるのが嫌いな俺としては、これくらいストレートなジャズのほうがスカッと爽快である。
格別に華のある演奏ではないが、手堅さをお勧めしたい一枚だ。

2012年4月23日月曜日

ペッパー・アダムス&ジミー・ネッパー/"Pepper-Knepper"

名前が似ていることをネタにした企画かと思いきや、この二人仲がよかったのか他にも双頭バンドのアルバムがある。


低音楽器ばっかでとりあえず地味だが、なんともいえない味のある演奏。
アダムスはタンギングの切れよくゴリゴリと吹くが、ほのぼのした雰囲気の曲目、相方がトロンボーンであることの影響もあってか、全体的にゴリゴリ系ではない。

ジミー・ネッパーというトロンボニストについてはよく知らない。
ものの本を紐解くと、ミンガスバンドのアレンジャーだったときに、ミンガスに殴られて歯を折られたこともあったらしい。なんとも気の毒な話だ。
そんなエピソードを聞くと演奏者としてのレベルはいかがなものかと先入観を持ってしまうが、本作を聞くと派手ではないものの「いぶし銀」な好プレイヤーであったことがわかる。
音色はビッグバンドでいえばリード向きではないのだろうが、曲によって音色も吹き分けているし、小粋なバップフレーズに好感が持てる。
"I Didn't Know About you"のソロなんかトロンボーンらしさが出ていてとてもよい。
そのあと急にウィントン・ケリーのオルガンが唐突に出現して笑えるんだこれが。

2012年4月13日金曜日

ジョン・コルトレーン / "Transition"

なぜか紹介される機会が少ないように感じる『トランジション』。
だが、コルトレーンのアルバムの中で3本指に入る傑作と思う。


『至上の愛』と『アセンション』のちょうど中間に録音されたもの。モードからフリーに移行せんとする時期であり、本作もフリーではなくやたらとゴリゴリなモードといった雰囲気だ。
だが、そんな豆知識は聴けば簡単に吹っ飛ばされる。
表題曲「トランジション」のあまりに圧倒的な迫力。
このあたりの時期からコルトレーンの音色はさらに次の段階に達してるように思われる。
暴力的なまでに楽器が鳴り、よりエッジが立ち、密度はどんどん増していく。
疲れを知らない長尺ソロは延々と続く。一体いつまで吹く気なんだと。
そして、賛美歌のような美しさのバラッド「ディア・ロード」をはさみ、「組曲」に突入する。
これがまた何とも凄まじい。
マッコイ・タイナー、ジミー・ギャリソン、エルヴィン・ジョーンズの各ソロがつながり、怒涛のテナーソロへ流れ込む。メロディックな超絶フレーズの嵐、フラジオ、フリーキートーンを連発しオーガズムへと上り詰める。そしてごく自然にテーマへと帰着。
こんな演奏をゼロから作り上げられる人間は他にいない。
なぜコルトレーンの死後10年も経ってから発表されたのか、まったくもってけしからん。

後期コルトレーンを敬遠している方にこそ聴いて欲しい一枚だ。

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2012年4月8日日曜日

ジョン・ルーリー(ラウンジ・リザーズ)



ジョン・ルーリー率いるラウンジ・リザーズのファーストアルバムがこれ。
バンドとしては、正直上手いんだかヘタクソなんだかわからない。本人曰く「フェイク・ジャズ」だそうだ。
ともかくルーリーのアルトはヨレヨレ。楽器はあまり鳴っていない。これはどう考えてもヘタクソなんだが、本人の吹きっぷりに迷いは感じられず。アート・リンゼイの好き勝手なノイズギターとなぜか上手いことかみ合っている。
『ハーレム・ノクターン』なんか、ろくすっぽソロも吹かないしおちょくってるように聴こえるのだが、オリジナル曲に顕著に見える「計算された適当さ」みたいなものがこのバンド独自のカラーなのだろう。
フリージャズのようなハチャメチャさはなく、かといってバップのような技量至上主義でもない。微妙にロックやニューウェーブの方向に寄ったインチキ臭い安っぽさが絶妙なかっこよさを生み出している。
ジャケットはイケてないが、名盤と思う。

ちなみにルーリーは映画俳優としてもその筋では有名らしい。見たことないのでわからんが・・・。

2012年4月3日火曜日

アルバート・アイラー/"Prophecy"

『スピリチュアル・ユニティ』録音の1ヶ月前に行われたニューヨークでのライブ盤である。

ライブということもあってか、録音はかなり適当。音質はスピリチュアル・ユニティより格段に悪い。
だが、ライブだけあって演奏はなんとも生々しく、楽器を通して肉声をそのままぶちまけたような吹き方だ。
聴いていて思うのは、アイラーは色々な音色を吹き分けられるプレイヤーだったということだ。
中音域の太さは王道テナーそのもの、Ghostのテーマではまるでチェロのようにも聴こえる。この演奏をするために余程練習したのだろう。

2012年3月24日土曜日

ルイ・ベロジナス(Ts) / "Live At Tonic"

ルイ・ベロジナス(Louie Belogenis)のライブ盤。
コルトレーンアイラーに強く影響を受けているプレイヤーで、他にも『メディテイションズ』とか『ベルズ』(まんまじゃん・・・)というアルバムを出している。
実はジョン・ゾーンの勉強仲間でもあったらしい。


2012年3月20日火曜日

ジョン・サーマン/ "The Trio"

「問題児ジョン・サーマン」というタイトルでバリトンサックス。買わないわけにはいかない。

英国フリージャズサックスの雄、ジョン・サーマンの名作『ザ・トリオ』である。
メンバーは
ジョン・サーマン(Bs,Ss,B-cl)、
バール・フィリップス(Ba)
スチュー・マーティン(Ds)。

フリージャズではあるが完全なフリーインプロヴィゼーションではなく、各曲にはやたらとかっこいいテーマが提示される。
バリトンで演ったプログレと言ったほうが適切か。




CDで2枚組み。一気に聴くのはしんどいかと思いきや、まったく飽きない。

2012年3月11日日曜日

スリー・バリトンサクソフォン・バンド/ "Plays Mulligan"

ニック・ブリグノラ、ロニー・キューバー、ゲイリー・スマリアン
という現代最高峰のバリトン奏者3人が一同に会し、マリガンに捧げて吹きまくるという、なんともしびれる一枚。バリトン好きにはたまらない。




パーソネルを見ると、ふむふむピアノレスか。ここらへんはマリガンへのオマージュか?
ジャケットもナイトライツっぽいし…。
しかしながら、3人とも音はブリブリ。
誰もマリガンの真似なんかしていない笑。ウェスト・コースともへったくれもない。

各プレイヤーのソロ・アルバムを聴いて「この人音はやっぱこうだよナ~」などと知った口を利いたりしたが、こうして3本並べられると
正直まったくわからない。すいませんでした。

2012年3月8日木曜日

メイヤーのアルトマウスピース(現行品)

マウスピースは何を使うか。これにこだわるのはサックス吹きの性みたいなものだ。
特にヴィンテージを追い求める人は多い。
たしかに現行品とはそもそも材質が違うし、抜群な音が出せるものもあると聞く。

しかし如何せんあまりに高価だ。高すぎる。
ニューヨーク・メイヤーだと10万円くらいはざらだ。しかも、ただ古いだけのろくでもないものも混ざっている。

であれば、実用に問題のない現行品をよく選んで買ったほうがいい。十分事足る。
メイヤーでいえば、現行品は1万円。選んで買って別の店でまた選んで前買ったやつを売って…、を繰り返してもトータルの支出は2万円くらいで収まるだろう。
浮いた金でプロのレッスンを受けたほうが余程効率的じゃなかろうか。

写真は知人から拝借している6MMの現行品。サイドレールの幅は均一で、きれいなバッフルが少し付いている。
まったくバッフルのないスポッと落ちていくような形より、音は幾分明るい。
フラジオの当たりも遜色ない。ファズトーンも問題なく出る。
最近巷に出回っているヴィンテージ復刻系(?)のマウスピースとも吹き比べたが音色、鳴りともに劣るとは感じなかった。
※ニューヨーク・メイヤーやらブラザーズやらと吹き比べたことはないので、そこはぜんぜんわかりません。

1本2~3万円するハイエンドマウスピースと比べても、コストパフォーマンスの点でも十分なのではないか。


さらにいえば、ヴィンテージだろうが現行品だろうが求めるポイントは同じなのだ。

・上から下まで均一に鳴るか
・最低音、最高音がピアニッシモで出せるか
・好みの音色か
・そして何より、吹くときにストレスを感じないか

音色の好みはあれど、要件を満たすならば現行品でもまったく問題ない。
有効な選択肢と思が、いかがでしょう?

2012年2月15日水曜日

ソニー・スティット / "Sonny Stitt"

言わずと知れた名盤を紹介したって仕方ないという意見もあるだろうが、いいものはいいんだから仕方ない。




文句なく満場一致、ソニー・スティットの名盤である。

アルバムタイトルからしてすばらしい。何しろ自分の名前だけなんだから。
「山田太郎」というアルバムがレコード屋で売られているようなものである(山田太郎さんて方いらしたらすみません)。
ジャケットも、まあどうなんだろうか…。血管浮きすぎである。

2012年2月10日金曜日

片山広明 / "そーかなあ"

まったく何て音を出すんだこの人は・・・。

酔いどれモンスター・テナー、片山広明さんである。









タイトルからして人を喰っている。『そーかなあ』、どーかなあ、とでも言えというのか(笑)。

個人的には渋さ知らズでの演奏よりも、少人数グループの片山さんの方が好みだ。
男気溢れる重量級テナーサウンドを思い切り浴びたいではないか。

古澤良治郎(ドラム)、望月英明(ベース)、加藤崇之(ギター)というパワフルなリズムセクションに乗ってテナーが暴れまくる。
フリージャズ独特の難解さはなく、うるさくてデタラメで最高に楽しい「片山ワールド」に引き込まれる。

2012年2月4日土曜日

フリージャズ大祭 "インスピレーション&パワー14"

昭和48年(1973年)、2週間にわたって新宿で行われた前衛・実験音楽の祭典。14日間のうち8グループの演奏を編集・収録したドキュメント録音である。



反体制運動の陰りとともに、日本フリージャズの勢いも衰えが見え始めた時期であったらしい。
このままジリ貧になる流れを打開すべく、副島輝人氏の呼びかけによってこのフリージャズ祭りは催された。
収録されたグループは以下の通り。
宮間利之とニュー・ハード
吉沢元治ベースソロ
沖至クインテット
ナウ・ミュージック・アンサンブル
富樫雅彦・佐藤允彦デュオ
高柳昌行ニュー・ディレクション・フォー・ジ・アーツ
がらん堂
山下洋輔トリオ

2012年1月27日金曜日

クローゼのエチュード

今日は練習の話でも。

ともかく社会人は例外なく忙しい。
限られた練習時間をどう使うかは最大の課題といってもいい。
上手くなりたい一心抑えがたく、となれば必然的にやりたいことは山積する。
倍音練習での音色作り、譜面の練習、曲のコピー、アドリブに必要な理論の習得、コードとスケールへの反応速度向上…etc、
が、当たり前も当たり前な話だが、基礎練習はやはり大事なのだ。



曲の練習をやりたい気持ちをグッと抑え、クラシックのエチュードをシコシコ練習する。
足で適当にリズムを取ったりせず、必ずメトロノームを使う。自分が何のキーのスケール練習をしているのか考えつつやる。
すると、技量の未熟さが露見する。これは結構つらい作業だ。
音の立ち上がりが悪い、疲れると音が潰れる、運指とタンギングが合わない、やたらと走る、苦手な運指は極端に出来ない…etc。
1ページなど容易に進まない。
もーーうんざりだ、やってられん!となっても我慢してやる。これが演奏の基礎体力になり、ひいては周囲をねじ伏せるアドリブソロにつながっている。
パーカーでさえ、ド下手くそな時にこういう練習をやっていたはずなのだから。

2012年1月8日日曜日

日野元彦カルテット feat. 山口真文(Ts) / "流氷"

文句なしの大名盤である。これを聴いてかっこいいと思わない奴に用はない。
つくづくスリー・ブラインド・マイスはさすがだなぁと思わされる。しかし、なぜこの名盤をちゃんとCD化しないのか。まったくもってけしからん。



1976年2月に根室市民会館で行われたライブの実況録音である。
とりあえず今では考えられない面子がそろっている。

日野元彦(ドラム)、渡辺賀津美(ギター)、井野信義(ベース)、清水靖晃(テナー、ソプラノ)、そしてゲストに山口真文(テナー)
す、すげぇ・・・。

表題曲「流氷」はモード一発の曲だが、キメの印象的なテーマが一気に興奮を誘う。ここで2テナーのソロが炸裂する。
山口真文さんはさすがの落ち着きぶりだ。熱気を孕んだフレーズの中にもどっしりとした貫禄が感じられる。次が清水靖晃の激情的なテナー。ファズトーンから一気に駆け上がり、コンテンポラリーな速射砲フレーズを吹きまくる。この時若干20歳。若さゆえの饒舌さなのか。
二人の演奏は、言うなれば「静」と「動」のテナー。それを煽る日野さんのまるでロックのようなドラム。これは必聴である。

スタンダード"Soultrain"も収録しているが、これは山口さんのテナーをフィーチャリングしている。
渋すぎる。こんないい音で吹くことが出来たらどんな気持ちだろうか。
武田和命さんの名演とはまた違った味わいがある。

レコードでも中古屋で見つけたら即買いすべき一枚だ。借り物でない日本ジャズのパワーと熱気が詰まっている。


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